お寺の手帖

「お寺の手帖」は暮らしの中で役に立つお寺の知識や、宗派や尊像など、
みなさまが興味をもたれるお話を当寺副住職がわかりやすく語ります。
今月の聖語
今月の聖語 令和2年5月
2020年6月1日(月)
先ず四表の静謐を
祈るべきものか
日蓮聖人御遺文「立正安国論」
今月の聖語 解説
〜信仰の寸心を改めよ〜
「疫れい、遍く天下に満ち広く地上にはびこる。死を招くの輩、既に大半を超え…」
これは日蓮聖人の代表著述「立正安国論」の冒頭のお言葉です。まさに800年前の様子が今私たちの眼前に起きています。
立ち止まってこのポスターを読んでくださっているあなた。あなたは多少なりとも宗教に更には日蓮聖人に関心をお持ちの方でしょうか。ならばそのあなたに伝えます。これは文字ではなく日蓮聖人の肉声であります。
この惨状の原因を「鬼神乱るるが故に万民乱る」と聖人は警告をされています。鬼神とは私たち人間が生み出すものです。医学科学実証主義の時代に笑止千万なと思われるでしょう。しかし、そもそもその思いがおごりだと言われています。
今一度謙虚に素直に聖人の声に耳を傾けて下さい。そして「南無妙法蓮華経」とお唱えしてみて下さい。それが世界(四表)に、日本に、そしてあなたに、安穏を取り戻す手立てなのです。
「立正安国論」
聖人の行動原理は総てこの書から発出しているのです。
文応元年(1260) 聖寿39歳
新型コロナウィルスの影響で大勢の方が苦しんだかと思います。また、大勢の方がお亡くなりになりました。まずはその方々の追善供養を祈らせて頂きます。
南無妙法蓮華経
緊急事態宣言が解除にはなりましたが、まだまだ気を抜いてはいけないと思います。
一人一人の行動が多くの皆様の命を救います。
どうぞ皆様お身体ご自愛頂き、また元気な姿でお寺へお越し下さいませ。よろしくお願い致します。
今月の聖語 令和2年4月
2020年5月1日(金)
善悪の根本
枝葉をさとり
極めたるを
仏とは申すなり
日蓮聖人御遺文「智慧亡国御書」
解説〜闇を切り裂く大灯明〜
「無明の闇」という言葉があります。
これは真理を照らす明かりがまったくなく真っ暗闇ということです。まさに迷いの根本です。
私たちはその中を手探りでさまよい歩いています。そして自分の価値観で「善だ悪だ」と決めつけ生きているのです。それがますます迷いを増長する結果となっているとも気づかずに…。
ならば私たちになくてはならないのは、闇を切り裂く灯明のはずです。その明かりとなるのは仏さまの智慧だけなのです。
本仏釈尊の前に素直に額ずく。これこそが大灯明を手にできうる唯一の方法なのです。
日蓮聖人ご遺文「智慧亡国御書」
本書は駿河の住人、高橋六郎兵衛入道の妻・持妙尼に宛てられたといわれています。
人間が抱える貪瞋痴の三毒の増長によって寿命が短くなっていく。更には様々な教えの流布がかえって国を亡びさせようとしていると警告されています。
それを救うのは唯一、善悪の根本を極めた本仏釈尊の智慧が明かされた法華経であると主張されています。
建治元年(1275) 聖寿54歳
今月の聖語 令和2年3月
2020年4月1日(水)
陰徳あれば
陽報あり
日蓮聖人御遺文「陰徳陽報御書」
今月の聖語 解説
〜陰徳陽報〜
「受けた恩は岩に刻め。貸した恩は水に流せ」と古人の言葉にあります。これは私たちの思いがこの反対になりがちだからこその戒めなのでしょうか。
見返りを考えずに行った親切でもお礼を言われなかったり、通じていなかった時に不満を覚える事はないでしょうか。
そんな時ちょっと振り返って下さい。あなただって誰かの親切に気付いていないことがあるかも知れませんよ。思い当たったらこの言葉を口ずさんで下さい。
「誰かがあなたの力になっている。あなたも誰かの力になっている。誰かが誰かの力になっている。」
日蓮聖人ご遺文「陰徳陽報御書」
本書は四条金吾氏に与えられたお手紙です。四条氏の強盛な法華経信仰は主君や同僚から何度も迫害を受けることになったのです。しかし相手の成仏を願う至誠の行動を貫いた結果、ついに事態が好転しました。
日蓮聖人は相手に理解されなくとも陰徳を積むことは必ずや大いなる功徳となって報われると説かれます。そのためにはじっと堪える忍辱心が重要なのだと励ましてくださってます。
弘安2年(1279) 聖寿58歳
今月の聖語 令和2年2月
2020年3月1日(日)
「娑婆と申すは
忍と申す事なり」
日蓮聖人御遺文「四恩鈔」
解説〜人生のアスリート〜
この世の人は娑婆とも呼びます。語源は梵語の「サハー」に由来し、苦しみを耐え忍ぶ世界ということです。
ところで今年は東京オリンピック・パラリンピック。アスリートたちは出場を目指し今まさに胸突き八丁。様々な思いで日々練習の苦しみに耐え忍んでいます。しかしその忍耐があるからこそ表彰台で光る涙がこぼれ落ちるのではないでしょうか。
苦しみは人の成長に導くエネルギー源です。私たちも人生の表彰台を目指すアスリートなのです。
日蓮聖人ご遺文 「四恩鈔」
本鈔は日蓮聖人伊豆流罪の折に書かれたお手紙です。
幕府に「立正安国論」を奏進するや次々起こる迫害の嵐。遂に伊豆流罪となられました。
しかし本鈔冒頭で「大いなる悦び」と語られるように流罪自体がご自身の法華経信仰の正しさの証しと受け止めておられます。そしてその迫害者たちに対しては「恩深き人」とまで述べておられます。
「忍」の極みに見えて来るのが「恩」なのです。
弘長2年(1262) 聖寿41歳
更新が遅くなり誠に申し訳ございません。
新型コロナウィルスが蔓延しております。皆様どうかご自愛頂き、お参りなどに来られる際は十分にご注意下さい。
よろしくお願い致します。
今月の聖語 令和2年1月
2020年2月1日(土)
心の財を
つませ給うべし
日蓮聖人御遺文「崇峻天皇御書」
解説〜怒りと付き合う〜
心の宝を傷つける根本に貪り、愚痴、怒りの三毒があります。この3つは互いに絡み合っていますが、なかでもまず生ずるのは怒りではないでしょうか。
最近は心理学でも「アンガーマネジメント」という怒りへの対処法の研究が行われています。それによればカッとした時、最初の6秒が重要だとか。その間、いかに心のコントロールをするかによって沈静するか増幅するかが変わってくるとのことです。
ところですでに仏様はそのコントロール法を用意して下さっていたのです。カッとしたら心の口で唱えて下さい。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」「はい6秒!」
今年の目標にしてみて下さい。
日蓮聖人ご遺文「崇峻天皇御書」
この書簡は堅固な信仰者、四条金吾氏に与えられた物です。金吾氏の欠点は非常に短気な点でした。いかに信仰が篤くとも短気は身を滅ぼす元になります。
この一節の前には「蔵の財よりも身の財すぐれたり。身の財より心の財第一なり」とあります。ここでの「心の財」とはひとえに忍辱の心を持つことでした。
建治3年(1277) 聖寿56歳
今月の聖語 令和元年12月
2020年1月1日(水)
「受くるはやすく
持つはかたし」
※「持つ」という漢字はここでは全て「もつ」と読まずに「たもつ」と読みます。簡単に説明致しますと、物をもつ時の意味合いではなく 受け続ける や もち続ける と言った意味合いで捉えて頂けますと幸いです。
日蓮聖人御遺文「四条金吾殿御返事」
解説 〜継続こそ力なり〜
「一念発起」という言葉があります。意を決して1つの事柄に取り組もうと立ち上がるのは大いに良い事です。しかしながらそれ以上に大切なのは、それを継続させることではないでしょうか。
継続は地味です。飽き易く迷いも起こり不安になりがちです。
しかしやり続けましょう。とにもかくにも自分を信じ、このご縁を下さった仏様を信じて続けましょう。
おのずと結果はついて来るはずです。
日蓮聖人ご遺文「四条金吾殿御返事」
本書は真跡は伝わってませんが「此経難持鈔」との事異称があります。その名の通り聖人の檀越で強固な信仰を持つひとりが四条金吾氏でした。しかしその金吾氏にもさまざまな迫害が加わり動揺が生じたのです。それを励ますために与えられたのが本書でありました。
聖人の教えの肝要は持ち続けること。持つとは継続であり、決して手放さないことです。
法華経信仰にはこの厳しさが要求されます。しかしその先には必ず喜びが待っているのです。
文永12年(1275) 聖寿54歳
今月の聖語 令和元年11月
2019年12月1日(日)
「一をもって
萬を察せよ」
日蓮聖人御遺文 「報恩抄」
解説 〜一を以て知る世界〜
狭い視野に留まり広く世間を知ろうとしないのは「井の中の蛙大海を知らず」と言います。
しかしこれにはこう続ける人もいます。「されど空の蒼さを知る」。たとえ世界が狭くとも1つの事柄を突き詰めていくことでその世界の深さや広がりを知ることがでにるというのです。
現代は情報が氾濫しています。それをキャッチすることも大切ですが、追いかけることに気を取られて本質を見極める目が曇ってはいないでしょうか。
「一」を侮ってはいけません。
日蓮ご遺文「報恩抄」
聖人の亡き師への弔意を通してまことの報恩について述べられたお手紙です。本書は仏教誕生から説き起こされ、お題目に帰結していく過程が詳細に語られています。
その中でも印度、中国へ渡り仏典を渉猟するよりも天台大師の経文に向かう姿勢にならって、法華経を軸にすべての経を取捨選択すべきことが解かれています。
標題のご文章に続いて「庭戸を出でずして天下を知るとはこれなり」とあります。この眼力は釈尊への信力から生じるのです。
建治2年(1276) 聖寿55歳
今月の聖語 令和元年10月
2019年11月1日(金)
「病によりて道心は
おこり候か」
日蓮聖人御遺文「妙心尼御前御返信」
解説
〜病も仏の慈悲心〜
「苦しい時の神頼み」とよくいいます。人間はそれほど強い生き物ではありません。日頃手を合わさない人でも病気になったり大きな困難に遭遇した時、神仏にすがりたくなります。これは自然の情ともいえるでしょう。
人智を超えた大いなる存在に頭を垂れ祈りを捧げる。ここに信仰との出会いがあるのではないでしょうか。
そう受け取るなら苦しみも神仏の慈悲の現れといえるかもしれません。
ただ大切なのは「喉元過ぎれば熱さ忘れる」重々用心しなければならない凡夫の性です。
日蓮聖人ご遺文「妙心尼御前御返信」
本書は駿河に住む妙心尼に与えられたお手紙です。
この女性は夫が重病に罹りました。余命幾ばくもないなか、夫本人は元より自らの髪を落として懸命に祈る妙心尼に励ましと夫の後生の慰めを与えています。
この中で「この病は仏の御はからいか」と述べられるように現世安穏、後生善処をもたらす法華経信仰を深めるため、あえて仏が与えられた病であると諭されているのです。
建治元年(1275)聖寿54歳
今月の聖語 令和元年9月
2019年10月1日(火)
日蓮聖人御遺文「法華題目鈔」
「仏道に入る根本は
信をもて本とす」
解説 〜求道〜
茶道、花道、書道、柔道、剣道、弓道など。日本古来の伝統文化、スポーツには「道」が付くものが多くあります。これらに共通するのは奥義を極めようとする求道心が伴っているという事ではないでしょうか。その鍛錬の中で自ずから技も磨かれ向上していくのです。
ところでこの奥義に達する為には、みずからが心身もろともにその世界に飛び込み、一体化を目指さなければならない事でしょう。
これすなわち仏道で説く「信」に通じるといえましょう。「道」は「信」によって達するのです。
日蓮聖人ご遺文 法華題目鈔
本鈔は女性信徒に与えられた書状です。表題が示す通り法華経の題目である南無妙法蓮華経に具わる功徳とそれを唱える人の功徳が明解に説かれています。
さらに「根本大師門人日蓮撰」と署名される如く、日本における法華経信仰の流れを伝教大師最澄に受けていることを表明しています。
一書を通じて「正直」と「信心」が肝要であることを強調されています。
文永3年(1266) 聖寿45歳
今月の聖語 令和元年8月
2019年9月1日(日)
お寺の本堂前の掲示板に毎月今月の聖語として日蓮聖人のお言葉を掲示させていただいております。
御檀家様の中で読み忘れてしまった方の為にもこちらで毎月あげていきたいと思いますので拝読頂けたら幸いです。
日蓮聖人御遺文 「御輿振御書」
「滅するは生ぜんが為
下るは登らんが為」
解説〜プラス思考〜
昔ある村に「三年峠」と呼ばれ恐れられた峠がありました。そこで転んだら3年しか生きられないというので、みんな注意して歩きました。ところがある男が転んでしまったのです。
「俺はもう3年しか生きられない」
と嘆き悲しみました。そこへ別の男が現れ
「もう一度峠へ行って、今度は10遍でも20遍でも転べばいい」
と言いました。
「逆に考えれば1遍転べば3年は確実に生きられるということ。それなら転ぶほどその分長生きできるぞ」。
物事は受け取り方次第です。ピンチの裏には同じ量のチャンスが用意されてるものです。
日蓮聖人ご遺文「御輿振御書」
本書の題「御輿振」とは、寺社の僧徒や神人が朝廷や幕府に対して仏力・神威をかざして訴えを主張したことです。かつてはそういったことが度々行なわれていました。
日蓮聖人は伝教大師最澄の
「末法の時代に近づくとき、法華一乗の教えが弘まる」
との言葉を引き出され、逆に正法興隆の契機になると述べられています。
文永6年(1269) 聖寿48歳